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" 聖母マリア " は、いにしえから絵画や彫刻といった芸術作品の中で、よく見られるテーマですし、
特に西洋美術に興味のない方でも、どこかで見た事があるのではないでしょうか。
基本的に、聖母マリアはキリストの母として信仰されていますが、
実は太古から世界中にあった大地の母、慈悲と創造の女神というイメージも重ねられていました。
だからこそ、宗教を離れ、人種を越えてなお、創造の源泉として、祈り愛される存在なのだと思えます。
たしかに、どの聖母も癒しと愛に満ちていて、
安らぎへ導いてくれるようですし、
ジュエリーにも古くから表されていますが、
マリア像のジュエリーを着けると守られているように感じます。
さて今回は、中世イタリアの絵画のなかで、
聖母マリアが身につけているジュエリーについてお話したいと思います。
時は13〜15世紀、
当時の絵画は金彩をふんだんに使った板絵が主流で、ほとんどが宗教画で、
祭壇画として、礼拝堂や教会に置かれていました。
絵のテーマは「キリストを抱く聖母マリア」や「東方三博士の礼拝」、「受胎告知」などで、ほとんどの絵に聖母マリアがいます。
贅をつくした装飾で、中世のジュエリーも沢山描いてありますので、
当時の稀少な風俗を見ることができます。
絵の中の聖母マリアは、たいていは青か赤のケープをまとい、ブローチを留めていますから、
古い絵をご覧になるときは、ぜひ胸元にも注目してみてください。
例えばこんな風に、四角や丸い形のブローチを留めています。
これは金細工で、中央には宝石がありますね。
( 慈愛の聖母マリア 14世紀 アンサーノ僧作)
石は少し黒っぽく見えますが、おそらくサファイアでしょう、
サファイアやルビーといった宝石は、当時はオリエントの国から運ばれ、王国貴族だけが手にとったものでしたし、青は聖母の色ですので、
最も高貴な貴婦人といわれる聖母に捧げられた宝石として、描かれています。
また、他にはこんな丸いブローチがあります。
金糸刺繍をした白いケープの下へ、密やかに留めていますね。
この絵の珍しいのは、淡い薔薇色の装いのマリアです、
画家は、薔薇色で聖母の優雅さを強調したかったのでしょうか、
青や赤が多い聖母像ですが、このような色の違いも興味深いですね。
この丸い黄金のブローチには、彫金があり、真珠やルビー、サファイアで飾ってあります。
続いて、とても珍しい聖母マリアをご覧いただきましょう。
ブローチをつけている絵が多い中、この絵ではイヤリングを着けているのです。
絵のテーマは天使ガブリエルの「受胎告知」、
( 受胎告知 14世紀初期 ロレンゼッティ作)
マリアのお顔を大きくしてみますと・・・
なんとも美しいイヤリングですね、
教会の窓のような形に、金の雫が垂れています。
今までさまざまな聖母像を見て来ましたが、
イヤリングを着けているのは初めて見ました。
また、ケープに留めている星のブローチも素敵ですね。
ヨーロッパでは星にはさまざまな意味がありますが、
そのうちの1つは、聖母マリアのシンボルで、ラテン語で「ステラ・マリス」と言う星があります。
星もいろんなジュエリーに使われていますので、マリアと同じように、永遠のモティーフですね。
さて続いて、あと2つの絵をご紹介してみます。
いずれもブローチで、一つは聖母マリアのもの、
(聖パウロと祈りの聖母 15世紀 ピエトロ・ディ・ドメニコ作)
四角い金のフレームの角には真珠がセットしてあります。
爪止めも大きく、中世時代らしいデザインです。
そして次のブローチは、教会のステンドグラスや透かし窓にあるような、開いた花の形です。
これはマリアではなく、同じ板絵に描いてある聖人の着けているもので、
( マドンナと幼子・聖人 14世紀 ブルガリーニ作 )
ひとつ上のマリアの四角いブローチを中央にして、
彫金のフレームで囲んだようなデザインです。
今回は、聖母マリアのジュエリーについてご紹介しましたが、
このような中世の絵では、全てが装飾的で、
オリエントの国との貿易でヨーロッパにもたらされた織物や金細工、風俗などが散りばめてあります。
中世の祭壇画は宗教画ばかりで、一見面白く無いと思われるかもしれません。
でも、これらの絵は当時の王国貴族達が、贅を傾けてまで画家に描かせたもので、
画家も工房の全力を尽くして仕上げたものばかりです。
そのため今ではもうわからない、当時ならではの風俗や装飾がふんだんに盛り込んであり、
細かく見て行きますと、どのモティーフにも意味がありますし、
感性で描いた絵よりも、ずっとシンボリックです。
画家たちは、まずは宗教上の定義を描かなければいけませんが、
その上注文主に応じて、当時の一番最新で、最も贅沢なものを沢山入れないといけないものですから、
いいかげんな空間は無いといって良い程、装飾で埋め尽くしてあります。
つまり、現実そのものを描いたのではなく、理想と希望、そして信仰を描いたと言えるでしょうし、
当時の画家の工房が一丸となって仕上げた絵ばかりなのです。
それゆえ500年以上を経た古い絵からも、当時の画家の心映えや、聖母マリアの慈しみが伝わってくるのだと思えます。
中世イタリアの絵を目にされるときがあれば、是非、細かいところまでご覧になって見てください。
いろいろな面白い発見があるかもしれません。
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* 聖母マリアのジュエリー *
ヴェルノン作 マリア像のペンダント
ダセット作 プリカジュール・エマイユ マリア像ペンダント
ヴェルノン作 マリア像ペンダント
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